2024年9月15日
ルカの福音書 10章25～37節
＜ 消極的な善から積極的な善へ ＞
この世の中に悪と善があります。善と悪は二種類ですが、私たちの行動パターンから見ると四つあるのではないかと思います。積極的な悪と消極的な悪があります。消極的な善と積極的な善があります。今日の聖書にはこれらの四つの行動パターンがあります。私達の普段の行動はこれらの四つの中でどちらに入るのでしょうか？
１．強盗の積極的な悪
３０節「・・強盗に襲われた。強盗たちはその人の着ている物をはぎ取り、殴りつけ、半殺しにしたまま立ち去った。」
襲う、はぎ取る、殴りつける、半殺しにする、そのまま立ち去る。強盗は最初から悪質な計画を立てて、罪のない一人を待ち構えていました。一番の目的は着ている物を奪い取る事ことです。奪い取ったので、目的を達成しました。それなのに、どうして殴りつけるのでしょうか？ 殴りつけるだけで終わらないで半殺しにするのでしょうか？ そのまま立ち去るとまもなく死にます。犯罪を隠蔽しようとしているのでしょうか？ なぜ、そこまで悪質な事を続けるのでしょうか？ 奪い取るだけで目的を達成したのに、一つの罪だけでも悪いのに、なぜ、もっと重たい罪を重ねるのでしょうか？ 人を襲い、人の物を奪い取ることはまだ軽い犯罪です。人を半殺しして、死にかけている人を放置することは深刻な犯罪です。
この強盗はなぜ、ここまで悪人になったのでしょうか？ 社会が彼をここまで悪人にしたのでしょうか？ 彼自身がここまで悪人になったのでしょうか？ この強盗にもいろいろの言い訳はあると思います。また、それなりのいろいろの弁明の言葉もあると思います。しかし、ここまで積極的な悪を犯してしまった以上、弁明の余地はありません。何の関係の無い人をここまで傷つけて、人格を踏みにじったので、それに相当するさばきがあります。
私達も罪人ではありますが、いくら何でも、ここまで悪い積極的な悪を実行する人ではありません。私たちは知り合いに計画的に悪を行うこととかしません。そして、私たちの周辺にもそこまで悪質な人はあまり見ていません。ドラマとか、映画には生まれつきの悪党を見ますが、私たちの周辺に本当に悪党と言える人はあまりいないと思います。私達の人生の中、わずか何人見るかどうかくらいしかいません。問題は消極的な悪の人、消極的な善の人です。
２．祭司・レビ人の消極的な悪
イエス様の例えに登場する祭司とレビ人は本来であるなら、積極的な善を求められる人です。一番神を愛するはずの人です。神を愛する人が同じく、人を愛するはずです。しかし、この二人は、神は愛しているかも知れませんが、人を愛していません。二人の行動は全く同じでした。「彼を見ると反対側を通り過ぎて行」きました。反対側は強盗に襲われて死にそうになっている人がいるところの反対のことです。強盗に襲われた人から一番遠く離れて、見ぬふりをしながら通り過ぎました。彼らはなぜ、神を愛しているはずなのに、人を愛していなかったでしょうか？
神を愛するがゆえに、神の戒めを思い思い出したから（信仰の理由）。
余計に近づいて、同じ被害を受けるかも知れないと言う恐れ（本能）。
余計に近づいて、加害者だと誤解されるかも知れない（面倒なこど）。
他人の不幸にはできる限り関わらない方が良いから（無関心）。
理由はいろいろあると思いますが、祭司とレビ人は消極の悪人です。正直この二人は強盗に襲われた人に何も積極に悪いことをしたわけではありません。積極的には悪いことをしていませんが、最小限度の善の行動をやってないので、それが悪です。この被害者は死にかけています。この二人が「反対側を通り過ぎて行く」間にも、助かる確率が減りつつあります。もしかして、助かるチャンスがありましたが、「反対側を通り過ぎて行って」しまったので、手当が遅れました。もしかして、この被害者がそのまま命を落としてしまったら、祭司、レビ人には責任が無いでしょうか？ この被害者を襲った強盗ほどの責任は無いですが、祭司、レビ人にもある程度の責任があります。被害者を見たのに、助けられたのに、助けなかったことである程度の責任があります。少しだけの手当てぐらいできたはずなのにやってないので、それが消極的な悪です。少しだけの手当てが消極的な善と言えます。消極的な善をやらないことが消極的な悪です。消極的な善と消極的な悪は紙一枚の差で、僅かな違いです。
この意味で考えると私達の日々の行動は消極的な悪と消極的な善の間にあります。ある時は消極的な善の行動をします。例えば、落ちているお金を交番に届ける。落ちているスマホ、カバンを交番に届ける。財布をカスタマーセンターに届ける。クレジットカードを会社にお電話する。道端に倒れている人に声をかける。これらの事は大体、消極的な善です。
しかし、届けるのに、時間がかかると時間がかかった分、消極的な善になるはずが、消極的な悪になることもあります。自分で使ってしまうかという誘惑の時間がありました。面倒くさいことになって、時間がかかります。時間がかかると紛失してしまった人も要らなくなります。
私達は以外とこれらのような消極的な意味での悪の選択を沢山しています。理由もいろいろあります。面倒なこと。無関心。現代の特徴です。大都会に住んでいる人たちの特徴です。誤解されるのが怖い。見ぬふりをする。私達は残念ながら子どもたちにも消極的な悪を勧めたことがあります。うちの子が誰よりも大事なので、できれば余計なところには巻き込まれてもらいたくなくて、できればこのような場面では避けなさいと教えています。
３．サマリア人の消極的な善
サマリア人の最初の行動は消極的な善でした。被害者を見て、かわいそうに思いました。かわいそうに思ったことが消極的な善です。かわいそうな人を憐れむ心は神さまからの賜物です。彼の消極的な愛はますます具体的に積極になりました。
まず、被害者に近づきました。傷にオリーブ油とぶどう酒を注いで包帯をしました。一時的な手当てをしました。自分の家畜に乗せて宿屋に連れて行って介抱しました。サマリア人はこの日の予期せぬことで、スケジュールが狂いました。時間です。余計なお金が無くなりました。お金です。サマリア人には損するだけのボランティアでした。けれども、サマリア人の消極的な愛によって強盗に襲われた人は命拾いしました。まさに死から救われました。もう一度生きるチャンスが与えられました。
私達キリスト者はこの地においてこのような小さい善の行いが求められています。特に、今の時代のように競争や、無関心、自分の事しか知らない冷たいところで、サマリア人のような小さい愛が必要です。
消極的な小さい善を行うために私たちは時間を使います。消極的な小さい善を行うためにお金を使います。消極的な善を行うために神経を使います。これらのものは全部、神さまからの者ではありませんか？ 神さまから頂いた時間の中から、お金の中から誰かを生かすために一部を使います。誰かを助けるために時間とお金を使うと神さまがもっと与えてくださるのでしょう。もっと多くの消極的な善が出来るように助けてくださいます。
４．サマリア人の積極的な善
サマリア人の消極的な善は次の日になっても続きました。彼は次の日、デナリ二枚を取り出し、宿屋の主人に渡し、お願いしました。介抱が終わるまで費用を払うつもりです。まず二日分を払って、その後も払うつもりです。ここまで行くともう、消極的な善ではありありません。一番、積極的な善です。ここまでできる人はほとんどいません。私達クリスト者もここまではしません。私達の周辺には積極的な悪人もあまりいませんが、積極的な善人もあまりいません。隣人を自分のように愛している人はあまりいません。私達は社会生活に疲れて、人生に疲れているので、生きるだけでも精一杯です。誰かを顧みられる余裕がまったくありません。せいぜい消極的な悪さえしなければ良いくらいの価値観で生きています。
しかし、私達自身が強盗に襲われた人になったら、良きサマリアの人を求めます。そして、良きサマリア人のような人に出会ったら、私達も良きサマリア人のように変わると思います。私達は生きている間、いつでも強盗に襲われた人のようになれる可能性があります。祭司も、レビ人も今日は運よく、強盗に襲われていませんが、明日は分かりません。もしかすると私達は皆、一度は強盗に襲われた人のような体験をいつかはするかも知れません。その時、良きサマリア人のようなお方に出会いますと命拾いします。良きサマリア人のような人に出会わないとそこで終わりです。その意味で考えると良きサマリア人はイエス様ご自身ではないかと思います。イエス様が良きサマリア人となりまして、私たち一人一人を死の危機から救い出してくださいます。そして、イエス様の大きな愛に深く触れたのであるなら、私達も一時的には良きサマリア人のような行動ができるのではないかと思います。
私達は今日の箇所を通して目指したいことがあります。消極的な悪をまず、止めることです。私達の世代は消極的な悪に染まりやすい時代です。私達が住んでいる大都会は消極的な悪に賛同しやすいところです。無関心、面倒だと思うこと、競争に疲れているなどの事でいつの間にか消極的な悪人になっています。
まず、消極的な悪から離れて、消極的な善に関心を持ちたいです。何よりもイエス様の大きな愛に触れて、何回でも積極的な善を実践する人になりたいです。生きている間に何回積極的な善を実践できるか分かりませんが、人生の一つの目標ではありませんか？ 私達は生涯何人を助けることができるでしょうか？
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